受賞者紹介

新規エレクトロスピニング法によるナノファイバー不織布の開発

高知県土佐市
廣瀬製紙(株)
その他受賞メンバー
市原康次、岡田祥司、門田拓也、小松知栄
推 薦 者
廣瀬製紙(株)
顔写真

岸本吉則  (49)
新機能素材開発部 部長

他社にできるなら自分にもできる!やり尽くし感と焦燥感のその先に、常識を覆すアイデアが待っていた
summary

エレクトロスピニング法(電界紡糸法)とは、紡糸ノズル内のポリマー溶液に高電圧を加えることにより、直径サイズ数nm(ナノメートル)のナノファイバー(微細繊維)を生成する技術である。30年代に登場した技術だが、この手法でナノファイバーを量産するには数十万本の紡糸ノズルが必要。高額の設備投資と煩雑なメンテナンスがネックとなり、国内では事業化に至っていなかった。同社が開発した新規エレクトロスピニング法は、高分子ポリマー溶液の表面全体からファイバーを直接取り出すことが可能で、ノズル・フリーを実現。低コストによるナノファイバー不織布の量産を可能とした。同時に、メンテナンスの手間を激減させた製造装置も自社で開発している。

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不可能といわれていたナノファイバー不織布の低コスト・大量生産に挑戦

 「他社でポリマーの研究開発をしていた私が、廣瀬製紙に中途入社したのは04年9月のこと。当社は確かに湿式不織布のトップクラス企業ですが、将来の発展につながる新製品が見当たらない。そこで入社後すぐに、高知大学の図書館に通い始めました。そして文献を読みあさる中で、ナノファイバーに大きな可能性を見いだしたのです」
 今、ハイブリッド車や電気自動車に搭載される2次電池用セパレータや、高機能化が進むフィルターなどに、ナノファイバー不織布の採用が検討されている。しかし、従来のナノファイバー生成技術・エレクトロスピニング法では、時間当たりの生産量が少なく、膨大な数の紡糸ノズルを設置する必要があるため、低コストで大量生産を行うことは不可能と考えられてきた。
 「エレクトロスピニング法に着目し、改良の研究を開始しました。05年の春、研究の一環で見学に出かけた国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で、ある会社がポリマー溶液に電圧をかけ、回転シリンダー表面からナノファイバーを生成する、ノズル・フリーの製造装置を展示していたんです。『先にやられた!』と、その時はかなり落ち込みましたね。でも、他社にできたのなら私にもできるはず。開き直って前向きに考えるよう、自分に言い聞かせました」
 それからは24時間、会社でも家でも、さらに夢の中でも、ノズルや回転シリンダーを使わない新たなエレクトロスピニング法のアイデアを考え続けたという。思い付いた手法はすべて実験に移したが、失敗の山が積み上がっていくばかり。やがて焦りを感じ始めた05年の夏、あたかも神のお告げのように、あるアイデアが頭の中にひらめいた。ポリマー溶液の表面全体からナノファイバーを放出させ、基材となる不織布に吹き付けたナノファイバー繊維を剥離し、それを製品化するというものだ。岸本さんは、すぐさま実験を開始した。
 「その結果は、私がイメージしていた成果をはるかに超えたものでした。生成された繊維の細さは約200nm(ナノメートル)と、それまで生産できていた繊維に比べ10分の1の細さを実現できたのです」

理論を覆した新技術が、不織布の用途展開の可能性を大きく広げた

 岸本さんが開発したノズル・フリーの新規エレクトロスピニング法により、ナノファイバーの低コスト・大量生産が事実上可能となった。しかも、不織布メーカーであればどこでも持っているような機材を組み合わせることで、比較的簡単に製造装置がつくれるという。さらにこの装置を使えば、紡糸量を容易に増大でき、紡糸部分をマルチユニット化することで、坪量変動の不均一性を防ぐというメリットも。
 「実は、このほかにもナノファイバー自体を生成する実験に成功していたんです。しかしメーカーは、ものをつくって売るという宿命を背負っています。要は、素晴らしい発明であっても、コストがかかりすぎては事業化できないということ。なので、この新規エレクトロスピニング法をベストとして選び、特許出願・取得をしたのです。その後、研究成功から製品化に至るまでのデスバレーを何とか乗り越え、現在は、市場競争にさらされたダーウィンの海を必死で泳いでいるような状況です」
 08年8月、量産体制に備えた製造装置が完成。国内外のナノテクノロジー系展示会に出展するなどしてマーケティングを続ける中、多くの企業が同社製のナノファイバー不織布のセパレータやフィルターのサンプルを購入。高い興味を示している。
 「電気自動車などに搭載される大型リチウム電池用セパレータには、孔径サイズ1000nm以下のポリオレフィン製・微多孔膜が採用されています。これまでの不織布ではその孔径サイズを実現することができませんでした。しかし、当社のナノファイバー不織布は孔径サイズ約200nmの繊維で構成できるため、微多孔膜が占有している市場への参入が可能となったのです」
 スタート時、岸本さんひとりだった新機能素材開発部も、今ではプロジェクトチームも含めると12人となった。廣瀬式ナノファイバー不織布は、セパレータだけではなく、各種フィルターやメディカル用品など、様々な製品の高付加価値化に貢献する可能性を秘めている。

廣瀬製紙(株)

http://www.hirose-paper-mfg.co.jp/

設立
1958年3月
資本金
2000万円
従業員数
32名(2009年12月現在)
ワンポイント
1次電池用のセパレータ(絶縁紙)、フィルター基材、食品・衛材用包装資材などを製造する、湿式不織布のパイオニア企業

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ナノファイバー不織布をつくり出す、同社オリジナルの製造機。従来の不織布にナノファイバーを複合化することも、ナノファイバー不織布のみを取り出すことも可能

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ステンレス製のボードで囲われた先に、廣瀬式と呼ばれる新規エレクトロスピニング法の秘密が隠されている

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ポリエチレン・ポリプロピレンなどの合成樹脂を主原料としたオレフィン紙(太い繊維)に、ナノファイバーを複合化させている。その細さがよくわかる

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大型の試作機が設置されるスペース。品質がさらに安定し、現在の3倍のスピードでナノファイバー不織布を生産できるように